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第486号 1998(H10).08発行

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環境にやさしい・水稲の省力施肥技術
-埼玉県のとりくみ-

埼玉県農業試験場 環境生物部
部長 日高 伸

Introduction

 これまでの農業技術は安価な化学肥料や農薬など化学合成資材の多量消費に支えられて,生産性向上を追求してきた。この過程において,BHC,DDT,水銀剤など残留毒性の強い農薬が大量に撒かれ,水田や川に生息するホタルやとんぼなど昆虫の多くが少なくなった苦い経験をもっている。しかし,様々な公害問題も技術革新によって,多くの難問を解決してきた。そして,今日,社会は再度,大きな試練に立たされている。

 それは,地球温暖化防止をはじめとする様々な環境問題への解決と地域住民の価値感の多様化に伴う生産技術の変更にある。すべての分野でこれまでの生産効率重視の技術体系を見直し,環境にやさしい新たな技術革新が求められている。環境と密接な関係にあり,地域の環境保全に貢献してきた農業もまた同様である。

 今日の全国規模で推進されている環境保全型農業は生産性と環境に留意しつつ化学肥料,農薬の一層の効率的利用,環境負荷をできる限り軽減し,安全で良質な食糧生産,人と自然にやさしい新たな農業技術の開発を目指している。

 新たな農業技術は環境への負荷削減を考慮しつつ,農家の労力削減や作業性の向上に貢献でき,低コスト化,高品質化の追求である。被覆窒素肥料を用いた水稲の全量施肥技術は本誌をはじめ,多くの研究成果が発表されている。これまでの基肥-追肥(分施)体系にとってかわる新しい施肥技術として,ほぼ確立したと思われる。この間,試験研究の成果を普及に移譲するまでには多くの試練があったことと推測される。

 何故なら,水稲の施肥法はすでに論理的に確立された技術であり,全量を基肥に施用することは到底受け入れられない強い抵抗があったことは否定できない。これを可能にしたのは,精度の高い肥効調節型肥料が開発され,従来の施肥法と遜色のない収量が得られること,そして何よりも省力化技術として農家に魅力があったこと,環境保全型農業の推進として,肥効調節型肥料が注目されたことにある。全量基肥技術が開発されてきた社会的,技術的背景を第1図に示す。

 埼玉県では1985年に始めて取り上げ,その成果をふまえて,近い将来に慣行施肥体系から全量施肥への転換が進むであろうとの予測にたって,試験を継続してきた。この間,シグモイドタイプ溶出の被覆窒素が開発され,一層,全量施肥技術の安全性を確認することができた。埼玉県農業試験場では1992年から土壌肥料-作物-病害虫の連携により,環境にやさしい稲作技術(省力施肥,化学肥料の削減が可能な肥効調節型肥料,また飛散や流出の少ない除草剤や施薬剤の選択)の開発に取り組み,作期に応じた体系化技術を確立した(第2図)。

 今回,被覆窒素肥料の全量施肥技術について開発の経緯と成果,普及性について,総枠を紹介し,次回に省力施肥法として普及が期待されている育苗箱全量施肥,移植に代わる栽培法として次世代の乾田直播栽培について被覆窒素肥料の適用を紹介する。

2.分施施肥体系から基肥重点施肥法ヘ

 わが国の慣行的に行われている全層施肥+穂肥の基本的な施肥法は1945年頃には確立されていたが,これを栄養生理的学観点(分施施肥1955年)から,まだ理想型稲づくりとして生理生態学的な一連の研究(V字稲作理論1959年)によって,水稲の施肥理論が確立する。これらの研究を基礎として,各地にあった幾つかの施肥技術が確立される。いずれも最大収量を得るための草型の改善,これを人為的にコントロールするための窒素施肥時期,施肥量の決定,そして施肥効率を高める施肥法の改善であった。これら相互の技術を体系化して,わが国の水稲施肥法は1970年代の前半には完成する。

 ペースト肥料を用いた側条施肥田植機が1970年代の後半に開発されるが,その後,目だった施肥法の展開はなく,約20年が経過した。しかし,この間にわが国の稲作農業は大きな変動期を向かえる。1971年以降の長引く生産調整政策,米価の据え置き,国際競争力の向上,低コストさらに1980年代のグルメブームによる米の品質向上,そして,1990年代の環境保全型農業の推進等が緊急の研究課題として取り上げられるようになった。中でも,高齢化農業社会に対応した省力化技術の開発は重要である。

 こうした中,水溶性の肥料を無機質・有機質の膜で覆って,溶出速度を調節する工夫によって成分の溶出速度,溶出時期を調節する被覆窒素肥料が開発された。すなわち,全量基肥技術開発の到来である(第3図)。1979年頃から,被覆窒素肥料を用いた施肥試験が全国の農業試験場を中心に行われ,これまでの基肥一穂肥体系の施肥概念とは全く異なり,窒素施肥量の全量を基肥に施用する全量基肥の施肥法が検討され,品種や地域の条件に合った資材の選択(第4図),施肥量が検討された。

 稲作の施肥理論(草型と窒素の養分吸収)を念頭に入れ,各地の実状に応じて慣行施肥体系の窒素供給にほぼ合った資材の選定と配合,施用量が決定される。その中で,山形では土壌窒素の発現量,施肥窒素の利用率向上を考慮した被覆窒素肥料の施肥法,福井,福岡ではワンショット施肥法として普及をはかり,栃木では早期早植栽培,埼玉では小麦後の普通栽培について,また愛知,滋賀など各地に適した全量基肥施肥法が開発された。

 新しい稲作技術体系に適用した施肥法も各地で検討され,千葉では湛水土壌中直播栽培に適した施肥法として,側条施肥と深層追肥を組み合わせた施肥技術を開発した。島根では湖沼の富栄養化対策を兼ねて,側条施肥法によって窒素20~58%,リン15~28%の溶出量が削減でき,被覆窒素肥料の施用によって,さらに窒素の流出防止と増収が期待された。新潟ではペースト肥料を用いて,不耕起移植栽培に適した施肥体系を確立し,側条施肥法-被覆窒素肥料体系では窒素利用率が高いことが示された。秋田では不耕起移植栽培で基肥窒素の利用率が低く,側条施肥が困難な条件に適した苗箱全量施肥法を開発し,東北地域で普及しつつある。

 これら被覆窒素肥料を活用した新たな農法は規模拡大を図る稲作農家にとって,また兼業農家や高齢化の進む稲作農家にとって,省力効果のみならず低コスト,収量,品質の向上が期待され生産性の高い農法といえる。また,環境への負荷の少ない施肥農業の確立にも,省力・機能性資材を活用した新農法に期待することが大きい。

3.埼玉県における全量基肥施肥技術の開発から普及まで

 全量基肥施肥技術の開発にあたっては土壌窒素と被覆肥料の窒素供給量が水稲の窒素吸収に比較的適合する資材を選択し,施肥量を決定することが重要である。その基本的な考え方を整理すると以下のとおりである。それぞれの条件に応じて,検討する必要があるが,特に,作期,作型,品種(コシヒカリと他品種),土壌(窒素発現の程度)については個々に適した資材の検討が必要である。

●水稲の窒素利用率,施肥効率を明らかにする。
●全量基肥では生育途中の窒素の過不足を補正できない。あらかじめ,被覆肥料の溶出特性,水田土壌の窒素無機化量を明らかにする。
●地力窒素供給量と肥料の窒素溶出量の和が水稲の時期別窒素吸収量の推移にできるだけ近い肥料を選択し,配合割合,基肥量を決定する。
●栽培法,作期,品種に最適な資材を選定し,肥効を確認する。

1)埼玉県水田土壌(灰色低地土,グライ土)の土壌窒素発現量

 本県を代表する水田土壌の窒素無機化量は第6図に示すように,土壌の種類,作期によって,異なるパターンを示す。早植栽培のグライ土では移植~成熟期までの積算値が9.7kg/10a,灰色低地土では7.8kg/10aであり,両者の差は7月上旬以降に拡大する傾向がみられる。早植栽培では幼穂形成期までに水稲生育期間中の約53%が,普通栽培では約49%が発現した。灰色低地土の窒素無施肥栽培の水稲による窒素吸収量は幼穂形成期までは土壌窒素無機化量の推移とほぼ一致していたが,それ以降は水稲の窒素吸収量が無機化量を上回って推移した。下層土の窒素発現,潅漑水由来の窒素が考えられる。

2)栽培法,施肥法と窒素利用率

 本県の早植栽培5品種の窒素利用率は概ね,基肥N:21~32%,中間肥N(移植後45日):28~34%,穂肥N:36~53%である。小麦後水稲(以下:普通栽培)のコシヒカリは基肥Nの利用率が19%,中間肥N:17%,穂肥N:27%に低下した。従って,基肥窒素,追肥窒素をこみにした化成肥料の窒素利用率は概ね40%以下である。

 以上の化成肥料の窒素利用率に対して,被覆肥料(LP-N)全量基肥の窒素利用率は早植栽培のLP100-N:50~66%,LPS100-N:80%,LP50-L:72%,普通水稲でもLP50-Nの利用率は80%と高い。平成7年度の被覆肥料を用いた全量基肥と化成肥料の慣行施肥体系で比較した窒素利用率でも明らかなように,被覆肥料の窒素利用率は化成肥料を大きく上回った。

 施肥窒素の利用率に対して,水稲の生産性から施肥効果を評価する施肥効率Y/F(収量Y÷施肥窒素量F)と生産能率Y/N(収量Y÷窒素吸収量N)が知られている。被覆肥料の全量基肥はいずれの栽培法でも施肥効率,生産能率が高まる。

3)被覆窒素肥料の溶出特性

 第7図はビン培養-圃場埋設法で得られた8資材の窒素溶出曲線を示す。LP40,LP50,LP70,LP100はリニアタイプとして,LPS60,LPS100,LPSS100はシグモイドタイプとして,それぞれ特徴ある溶出曲線が得られた。100日間培養時の最大溶出率は,LP40~LP70では約90%が,その他のタイプは約80%であった。シグモイドタイプの溶出開始期はSタイプが約30日,SSタイプが約40日で立ち上がりがみられた。溶出開始期までにS,SSタイプでは2%以下の溶出であった。

4)作期・作型別の全量基肥施肥-資材の選択-

 従って,被覆尿素の単独または溶出タイプの異なる被覆尿素の組み合わせによって,従来の分施体系(基肥-追肥)に代わって,全量を基肥に施用することができる。例えば,グライ土は地力窒素を補完する資材として,移植時期と水稲の生育,養分吸収,収量性から判断してLP100が最適であった。一方,灰色低地土の早植栽培では土壌窒素発現量から判断して,肥料に依存する施肥体系(基肥+追肥)を必要とし,初期生育と有効茎歩合の確保をねらいとして,また穂肥の代替として,リニアタイプ(LP50)+シグモイドタイプ(LPS100)の配合肥料を選定した(第8図)。

 作期,品種に適した被覆肥料を選択した場合には被覆肥料の窒素溶出の推移が水稲の窒素吸収に比較的よく一致する。しかし,LP50やLP100などのリニアタイプは水稲の生育中期以降も経時的に窒素が溶出するために,慣行施肥体系の葉色の推移に比べると,幼穂形成期直前の葉色の低下はみられず,同時期の葉色はやや高めに推移する。生育中期の窒素の過剰は収量不安定化の一因であるので,溶出のタイプ,窒素の施用量など適正な資材の選択と施肥量によって収量を安定的に高めることができる。

 以上の結果から埼玉県の作期,作型に適用できる被覆肥料の種類を第1表にさらに,各地の実証試験圃場で得られる成績を第2表に示す。

 以上の全量基肥は増収技術,品質向上技術をねらいとした施肥法ではなく,あくまでも施肥省力の技術である。しかし,全量基肥では安定して高い収量が得られ,また玄米窒素濃度から判断した品質および出荷等級も安定して高い評価が得られている。さらに,施肥窒素の利用率が高まることから,慣行施肥量の1~3割程度を減肥しても,高位に安定した収量が得られる。従って,省力・安定多収・環境保全型施肥技術として高く評価できる。

 埼玉県では全量基肥の平均収量指数は103%である。また,平成5年の冷害年では対照区比111%の収量指数が得られた。これらの試験成果はこれまで慣行的に行われてきた基肥-追肥体系に比べて何ら遜色ない収量が得られることを示している。これも肥効調節型肥料(被覆窒素肥料)の溶出コントロールの精度が高まったことによるが,研究機関等で得られた地域・品種にあった被覆窒素肥料の選択と配合についての成果もまた生育・収量の安定化に貢献している。

 従って,省力施肥が可能となり農作業上のメリットは大きい。夏の暑い日の作業を軽減(労働力・時間の削減)できる他,追肥数日前からの精神的な負担(肥料の準備,施肥量配分・計画,葉色診断による追肥時期の判断,天気の心配)からの解放である。特に,全量施肥技術は施肥管理の行き届かない農家,労力的に余裕のない農家に最適な技術である。また,慣行の追肥体系による施肥作業が事実上は困難な大区画水田に導入が望まれる。

 このように,肥効調節型肥料は施肥技術が長年の目標としてきた肥料成分の飛躍的な利用率向上を実現したのみならず,これによって施肥量を削減でき,河川の富栄養化防止,地下水の硝酸汚染防止対策など環境保全型農業の要として普及が期待されている。研究機関では農業従事者の高齢化が進む中,他の作物についても環境保全と省力化を目指した体系化について技術開発が求められている。

 民間では,肥料に農薬や植物成長調整剤微生物資材入り肥料などの様々な機能を持った高付加価値肥料の開発が進められている。これら資材を活用した新たな農法は規模拡大を図る稲作農家にとって,また兼業農家や高齢化の進む稲作農家にとって,省力効果のみならず低コスト,収量,品質の向上が期待され生産性の高い農法である。そして,環境への負荷の少ない施肥農業の確立にも,省力・機能性資材を活用した新農法に期待することが大きい。

 これらの資材を使った農法を「省力・機能性資材活用型先進的農法」と命名した。愛称を「E農法」とし,技術の普及を図っている。EはEasy(楽),Elimination(省力),Environment(環境),Economical(経済的),Effect(効果,ききめ),Expectation(期待),いい(良い)を意味している。埼玉県経済連は環境にやさい肥料・資材を活用した農法をJA・E農法として推奨し,資材の普及推進を図っている。

 

 

イチゴの本圃の省力栽培
-なぜイチゴ本圃の省力栽培技術が必要なのか-

福岡県農業総合試験場 園芸研究所
専門研究員 伏原 肇

Introduction.

 福岡県におけるイチゴの粗生産額は約200億円で,野菜全体の粗生産額の約3割を占める重要な品目であり,今後も農業振興を支える大きな柱のひとつとして期待されている。しかし一方では,生産者の高齢化や後継者不足など農業全体が抱える今日的な問題に加え,一作が一年半以上におよぶ長い労働時間とイチゴの生態的な特性に起因する前屈みの窮屈な作業姿勢を全栽培期間にわたって強いられることなどイチゴ栽培特有の問題が深刻化の度合いを増している。このため,本県におけるイチゴの栽培面積や生産者数は平成2年をピークに年々減少しており,現在の生産基盤を維持することが困難な状況に陥りつつある。

 日本のイチゴ作付け面積の約半分を占める「とよのか」は福岡県の主要品種であり,10数年前に福岡県が他県に先駆けて品種更新したことや作期前進化のための花芽分化促進技術開発などその時々の新技術が収益の大幅な増加をもたらしたが,単位面積当たり収量の伸びは小さく,これまでの経過を考慮すれば今後の収量の大きな増加は期待できない。また,「とよのか」で安定した収量を確保するためには,長い育苗期間による大苗養成や着色不良果防止のための葉よけや玉出し作業を必要とするなど,栽培管理に多くの時間と熟練が要求されている。

 一方,これまで生果用の輸入イチゴは主に我が国の促成栽培の端境期が対象であったため本県の促成栽培とはほとんど競合することはなかったが,最近は促成栽培の収穫時期と競合する隣国の韓国などからの冬季の輸入が年々増加しており,国際間の競争が顕在化し農業分野でも「大競争」時代に突入した感がある。

 こうした情勢を踏まえたうえで,県内はもとより国内産イチゴの生産振興を図るためには,販売価格の低下にも十分耐え得るイチゴ経営の実現が不可欠である。そのためには作業労力を大幅に軽減することにより経営規模の拡大を図り,単位面積ではなく1経営体当たり収量の大幅な増加を図る必要がある。また,高い農業所得に加えて「ゆとり」のある農家生活が実現すれば後継者問題も解消すると思われる。

 したがって,今後のイチゴ生産のためにはこれらのことを解決する省力化技術や軽作業化技術の開発や導入等が重要となる。

 イチゴの栽培は本圃の面積や管理期間に匹敵する採苗圃,育苗圃が必要であるが,ここでは全労働時間の約半分を占める本圃の省力化・軽作業化について述べる。なお,本稿は平成10年1月に開催された98年度イチゴセミナーで報告した内容を加筆修正したものであることをお断りしておく。

1 省力・軽作業化の現状

(1)労働時間や作業姿勢の実態

 「とよのか」の促成栽培に要する10a当たりの労働時間は,2,000~2,500時間程度で,その大部分が本圃管理・収穫及び調整作業であり,その時期に相当する秋季~春季の労働時間は一般勤労者の平均労働時間を大幅に上回っている(図1)。

 定植準備から収穫までの作業別労働時間のなかで最も多いのは収穫に関する労働時間であり,本圃に要する全労働時間の1/3を占めている。その他,株毎に行う下葉除去などの本圃管理作業時間が同じく1/6を占めている(表1)。

 イチゴ生産者の作業姿勢に関しては,収穫作業時の主な作業姿勢である中腰姿勢等に関連があると思われる腰痛の有訴率が高く,また男性では約60%程度であるのに対して女性では80%を超えており,男女間で有意な差がみられることや前屈みになった上体を支えるために肘を膝で支えることにより腰部への負担が軽減することを末永は明らかにしている。

 また田中は,エネルギー消費の面からみればイチゴの収穫作業は軽労働の部類に属しているが,1日3~5時間の作業が半年以上にわたって連続するために,指先,腕や腰など特定の部位に負担がかかるとともに,作業姿勢が中腰であることから,腰の疲れや胃の圧迫などで健康上問題が生じていること,そして運搬車を利用することによって疲労が少なくなり,作業能率も向上することを報告している。

 したがって,イチゴ栽培の省力・軽作業化を実現するためには,収穫や管理に関わる労働時間の大幅な短縮と作業姿勢の改善を図ることが必要不可欠となる。

(2)省力化・軽作業化の実態

 全国のイチゴ主産県における本圃作業の省力化に関する取り組みの実態について,全国イチゴ主産県のアンケート調査結果をもとにまとめたものを表2に示す。

ア 本圃作業車の導入状況

 本圃作業車の利用目的はほとんど収穫作業が中心であるが,定植時の苗の運搬や下葉除去等の本圃管理にも利用されている。作業車には様々な様式がある。輪数は2輪~4輸があり,2輸は畝の間の溝部分を走行するのに対して3,4輸は畝を跨いで走行する方式となっている。また,2輸は市販品がほとんどであるが,4輸は市販品もあるが手作りも多い。作業車の動力源はすべて人力であり,動かす方法としては,2輸は座りながら足で地面を蹴りながら作業車を動かす方式が多いのに対して3,4輸は手押し式が多い。

イ 装置, 資器材および耕種法

 病害虫の省力的な防除方法として,くん煙剤の利用の他に無人でハウス内の防除ができる各種煙霧機が利用されている。温度管理の省力的な方式として換気扇や天窓の自動開閉方式が普及している。手動の巻き上げ器もハウス側面のビニルの上げ下げが楽にできることからかなり普及している。

 耕種法の省力事例としては,小型ポット(愛ポット)や9cmポリポットを利用した定植前マルチングが120例以上で報告されている。そのほかに,本圃施肥を省力化するためにロング肥料などを用いた例も多い。

 イチゴ本圃の高設栽培について方式別に集計した結果を表3に示す。腰を伸ばした楽な姿勢での収穫や栽培管理ができる高設栽培の導入割合は,調査対象農家数および栽培面積のそれぞれ0.7%,0.6%にすぎない。高設栽培のほとんどは養液栽培方式であるが,最近は培土を利用する方式の開発が進んでいる。

2 本圃の省力・軽作業化のための高設栽培に関する研究の取り組みと問題点

 本圃管理の省力化や軽作業化の実現に大きく貢献できると考えられる高設栽培について,研究の取り組みの現状と問題点を述べる。

 高設栽培は管理作業が立ったままの楽な姿勢でできるため,慣行の土耕栽培に比べて疲労感が減少することが報告されている(表4)。高設栽培は大まかに分けて養液栽培とそれ以外の方式があるが,両者の中間で区別がつきにくい方式も見られる。

(1)養液栽培方式

 養液栽培方式による高設栽培は,近畿・東海地域を中心として徐々に普及しつつある。以前はNFT方式が主流であったが,最近ではロックウールを利用する方式が主流となっている。民間企業が先導して導入が図られているが,導入費用が割高であることと生産の安定性がまだ十分ではないことから普及は一部の産地に限られている。最近,香川県ではピートバッグ,炭酸ガス施用や高夜温を利用した西ヨーロッパ型の高設栽培方式を導入し,平成9年産では8haと急速に普及している。

(2)非養液栽培方式

 養液栽培以外の高設栽培方式としては,昭和50年代前半からいくつかの県や大学および民間において開発が取り組まれ,多段式,ひな段式,シーソ一回転式等が現地に試験的に導入された。しかしながら,アンケート調査結果からもみられるように,現在ではまったく普及していない。例えば,三重県方式のベンチ栽培方式では,3段方式から平面方式へ改良した結果,地床と比べて収量は40~50%増加したのに拘わらず普及しなかった。その原因として,生産者は収量性における正の評価より導入経費,作業性についての負の評価が大きかったことが上げられている。

 他方,この方式では最近新たな取り組みが見られる。福岡県では少量の軽量培養土と簡易な架台および果実温度の制御に配慮した低コストな暖房法の利用により従来の高設栽培に比べて極めて安価に導入できる福岡式高設栽培(図2,表5)を開発した。この方式は平成9年産では約2.3haで試験的に導入されている。

 長崎県では発泡スチロール製の栽培槽と温湯暖房を組み合わせた方式が開発され,平成9年産では長崎県を中心に約5haで普及している。また,滋賀県ではヌキ板で構成される栽培槽にもみがら,水田土を培土として利用する方式が開発され,平成9年産では約1.3haに導入されている。その他の機関でも様々な方式が開発されつつあり,今後の進展が注目される。

福岡式高設栽培の特徴

(1)栽培用架台の構造が簡単なため,資材費が安価で,生産者が自家施工できる。また養液を流す必要がないため栽培槽の水準を厳密にとる必要はない。

(2)栽培槽の基本的な構造は一条植えであり,多条植えの場合には果房内成り方式や外成り方式をはじめとして,2条用架台,3条用架台,4条用架台あるいは多段架台を選択し,あるいは考案することによって施設面積に適した架台配置ができる。また,架台の高さも生産者の都合のよい高さに設置できる。

(3)培養土は有機質主体の軽量なもので,保水力・保肥力が高く,従来の土耕栽培と同様の栽培感覚で管理できる。

(4)低温期には透明フィルムで密閉した架台内部を加温することによって,根圏およびフィルムに接触した果実の温度を確保できる。

(5)比較的温度の高い時期には,架台側面の被覆を取り外すことによって,根圏や果実の過剰な温度上昇を防止できるので高温による傷み果の発生が少なくなり,収穫期の延長が可能である。

3 本圃作業の省力・軽作業化の今後の展望

 今後,本圃管理の省力・軽作業化に必要と思われる装置,資器材および耕種法を表6に示す。栽培管理装置・資器材で最も要望の多いのは高設栽培である。また,低コストの養液栽培も上げられている。そのほか移植機や収穫車開発の要望も多い。これらについては,すでに手掛けている研究機関がいくつもあり,早い時期の成果が期待できる。

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 環境制御装置・資器材では,自動換気や土壌水分計を利用した自動かん水システムの要望が多い。これらについては,センサ一等の開発がメーカーを中心に進んでいる。また,天井全体が開閉するオープンハウスや半分開閉するハーフオープンハウスも強風耐性が実証されれば普及するものと思われる。

 栽培管理方式では,定植前マルチングの要望が多いが,すでに「とよのか」栽培地帯では普及が始まっており,他の地域にも徐々に拡大するものと思われる。

Conclusion

 イチゴ栽培農家数や作付け面積は年々減少しており,最近はその傾向に拍車がかかりつつある。イチゴをやめた生産者が他の品目へ転換する例は少なくほとんどがリタイアであることを考えればその原因は根深い。この状況を打破するためには,生産者にとって夢のもてる新技術や装置の開発はもちろんであるが,加えて経営の手段としてのイチゴ栽培であることを生産者一人ひとりが十分認識する必要がある。イチゴでは収量を増やすことが即収入増加につながることを考えればむしろ取り組みやすい品目と思われる。

 最近の大きな変化として,これまでのイチゴ専業農家のリタイアが増加する一方で,いわゆる脱サラや他品目からイチゴ栽培を始める人が増加している。今後はこれらの人に対する部会側からの様々なフォローが必要となる。